2.2 ベクトルの一次独立性

ある2つのベクトル\(\boldsymbol v_1, \boldsymbol v_2 \in \mathbb R^{n}\)を考えよう.もし,この二つのベクトルの間にスカラー\(c \in \mathbb R\)として,\(\boldsymbol v_2 = c \boldsymbol v_1\)という関係があった場合と,そうでなかった場合ではデータとしての情報は前者の方が少ないと言えるだろう.さらに数を増やして,100のベクトルがデータとして得られた時,いずれも\(c_i \in \mathbb R, i = 2,\ldots,100\)に対して\(\boldsymbol v_i = c_i \boldsymbol v_1, i=2,3,\ldots,100\)という関係が見られたとすると,全てのベクトルは\(\boldsymbol v_1\)の定数倍として表されるので,データが持つ情報としては\(\boldsymbol v_1\)一つあれば十分と言えそうである.つまりある意味では100のベクトルがあったとしても,全てのベクトルがなくとも,情報量を保持していると言えるような気がするわけである.

このように,ベクトルが持つ情報の独立性を捉える概念として一次独立一次従属が導入される.

Definition 2.3 (一次従属・一次独立) \(V\)をベクトル空間として,\({}^{\forall}\boldsymbol v_1 ,\ldots, \boldsymbol v_p \in \mathbb R^{n}, {}^{\forall}c_1, \ldots, c_p \in \mathbb R\)を考える.ただし\(c_i\)のうち少なくとも1つは\(0\)出ないとする.

このとき,

  1. \(c_1 \boldsymbol v_1 + \cdots + c_p \boldsymbol v_p = \boldsymbol 0\) となる\(c_1, \ldots, c_p\)の組が存在する時,\(\boldsymbol v_1, \boldsymbol v_2, \ldots, \boldsymbol v_p\)一次従属であるという.

  2. \(c_1 \boldsymbol v_1 + \cdots + c_p \boldsymbol v_p = \boldsymbol 0\) となる\(c_1, \ldots, c_p\)の組が存在しない時,\(\boldsymbol v_1, \boldsymbol v_2, \ldots, \boldsymbol v_p\)一次独立であるという.

Theorem 2.2 (一次独立なベクトルの性質) \(V\)をベクトル空間とする.\(\boldsymbol v_1, \ldots, \boldsymbol v_p \in \mathbb R^{n}\)が一次独立とする.このとき以下が成り立つ.

  1. \(\boldsymbol v_1, \ldots, \boldsymbol v_p \neq \boldsymbol 0\)
  2. \(i,j = 1,\ldots,p, i \neq j\)となる\(i,j\)について,\(\boldsymbol v_i \neq \boldsymbol v_j\)
  3. \(\boldsymbol v_1, \ldots, \boldsymbol v_p\)からどの一部分を選んだベクトルの組もまた一次独立

Exercise 2.2 (一次独立性) 次のベクトルの組が一次独立かどうかを確かめよ.

\[\begin{align} \text{1. } \boldsymbol v_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 4 \\ 8 \end{pmatrix} \boldsymbol v_2 = \begin{pmatrix} 3 \\ 12 \\ 24 \end{pmatrix} \boldsymbol v_3 = \begin{pmatrix} 8 \\ 7 \\ -8 \end{pmatrix} \end{align}\]

\[\begin{align} \text{2. } \boldsymbol v_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 4 \\ 8 \end{pmatrix} \boldsymbol v_2 = \begin{pmatrix} 5 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix} \boldsymbol v_3 = \begin{pmatrix} 8 \\ 7 \\ -8 \end{pmatrix} \end{align}\]