1.16 逆行列と正則行列
実数の掛け算では,\(3\)に対して\(1/3\)を掛けると\(1\)となるように,ある数\(x\)に対して逆数\(1/x\)を掛けると\(1\)になるものがある. このような関係を行列積に拡張したものが逆行列である.
Definition 1.6 (逆行列) \(A \in \mathbb R^{n \times n}\)に対して,
\[\begin{align} AX = I_n, \hspace{5mm} YA = I_n \end{align}\]
のように行列積の結果が単位行列になるような行列を\(A\)の逆行列という.これを\(A^{-1}\)と表す.
逆行列は実数における逆数のように簡単に求めることはできない.その方法については後述する. また,実数においては\(0\)を除いて逆数を持つことは想像が着くだろう. しかし正方行列においてはゼロ行列ではなくとも,一般に逆行列を持たないものが存在する. 逆行列を持つかどうかは重要な情報であるので,この性質に行列を特徴づける. 具体的には逆行列を持つ正方行列を正則行列であるといい,また単に正則であるという.逆行列を持たない場合は特異あるいは非正則と呼ぶ.
Exercise 1.11 (逆行列) 次の行列演算を行い,一方の行列が他方の行列の逆行列となっていることを確かめよ.
\[\begin{align} (1) \hspace{5mm} \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \end{align}\]
\[\begin{align} (2) \hspace{5mm} \begin{pmatrix} 1 & 2 & 0 \\ 0 & -1 & 1 \\ 0 & 0 & 3 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & -2/3 \\ 0 & -1 & 1/3 \\ 0 & 0 & 1/3 \end{pmatrix} \end{align}\]