2.3 ベクトル空間の基底と次元

\boldsymbol v_1, \ldots, \boldsymbol v_p \in \mathbb R^{n}の組が一次独立,または一次従属であることと, \mathbb R^{n}というベクトル空間には重要な関係がある.それが基底という概念である.

Definition 2.4 (ベクトル空間の基底) Vをベクトル空間として,\{ \boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{p} | \boldsymbol v_i \in V \} が次の条件を満たす時,これをV基底という.

  1. \boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{n}は一次独立である.
  2. {}^{\forall}\boldsymbol v \in Vに対して,{}^{\exists}c_{1},\ldots,c_{p} \in \mathbb Rで,\boldsymbol v = \sum_{i=1}^p c_i \boldsymbol v_iとできる.

\boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{p}Vの基底である時,「\boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{p}Vを張る」などと表現し,V = {\rm span}(\boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{p})と書く. 張るとは,船の帆などを布を張るようなイメージをして欲しい.例えば布をしわなく張ろうとすると,少なくとも同じ方向を向いていない二つの棒があれば実現できそうに思える.これが空間を張るというイメージである.

棒の持ってき方が無数にあるように,ベクトル空間の基底もまた無数に存在する.

Theorem 2.3 (ベクトル空間の基底の数) ベクトル空間Vの基底となる二つの組\boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{n}\boldsymbol w_{1},\ldots,\boldsymbol w_{m}を考える.この時n=mが成り立つ. またこのn,mすなわち基底となるベクトルの数をベクトル空間Vの次元と呼び,\text{dim}Vと表す.

部分ベクトル空間の基底を含むような,ベクトル空間の基底が存在することを次の定理では保証している.

Theorem 2.4 (ベクトル空間の部分空間の次元) \mathbb R^{n}の部分ベクトル空間W(\text{dim}W = m)について,以下が成り立つ.

  1. m < n
  2. m = n \Leftrightarrow W = \mathbb R^{n}
  3. Wの任意の基底\boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{m}に対して,ある\boldsymbol v_{m+1},\ldots,\boldsymbol v_{n}が存在して,\boldsymbol v_{1},\ldots,\boldsymbol v_{n}\mathbb R^{n}の基底となるものがある.

次に部分ベクトル空間を複数考え,その共通部分や和を取った時の次元について述べる.

Theorem 2.5 (複数の部分ベクトル空間の共通部分と和の次元) Vをベクトル空間,W_1, W_2をその部分ベクトル空間とする.この時

\begin{align} \text{dim}W_1 + \text{dim}W_2 = \text{dim}(W_1 \cap W_2) + \text{dim}(W_1 + W_2) \end{align}

が成り立つ.ただし,W_1 \cap W_2 = \{ \boldsymbol w | \boldsymbol w \in W_1, \boldsymbol w \in W_2 \}で,W_1 + W_2 = \{ \boldsymbol w_1 + \boldsymbol w_2 | \boldsymbol w_1 \in W_1, \boldsymbol w_2 \in W_2 \}である.

もし部分ベクトル空間の共通部分が\boldsymbol 0のみの場合,それらの和を直和と呼ぶ.この時,それぞれの部分空間の任意の基底を併せたベクトルの組は,部分ベクトル空間の和としての部分ベクトル空間の基底となる.

Exercise 2.3 (基底と次元) 次の3つの3次元ベクトルが\mathbb R^3の規定を構成することを示せ.

\begin{aligned} \boldsymbol e_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}, \hspace{5mm} \boldsymbol e_2 = \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \hspace{5mm} \boldsymbol e_3 = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \end{aligned}