2.4 行列の対角化

対角行列はこれまでに紹介した,

  • 逆行列を求める
  • 固有値・固有ベクトルを求める

といった操作の計算コストがかからない,といった嬉しい特徴がある. 一般に逆行列を計算するのは簡単ではなく,行列のサイズが大きくなると計算コストは増大していくことが知られている.

そのため,n次の正方行列が対角行列ではなかったとしても,何らかの形式で対角行列とそのほかの行列の積の形で 分解できるならば,ある意味で扱いやすい形に変換できる可能性がある.

以降では正方行列の対角化について紹介する.

Definition 2.2 (行列の対角化可能性) ARn×nに対して,

L=P1AP=diag(1,,n)

と対角行列にできる正則行列PRn×nが存在する時,Aは対角化可能であるという.

対角化可能な条件として以下が知られている.

Theorem 2.3 (対角化の条件) ARn×nを考える.この時以下が成り立つ.

  1. Aの固有値λ1,,λnが全て相異なるならば対角化可能である.
  2. Aに一次独立なn個の固有ベクトルが存在するAは対角化可能である. この時,Aを対角化した行列をP1APとすれば,Pの列ベクトルはAの一次独立な固有ベクトルとなる.

2.4.1 対角化のメリット

Aが対角化可能であれば,その対角化をL=P1APとした時,Anの計算が簡単に行える.

n乗の計算は,

An={P(P1AP)P1}n=P(P1AP)P1P(P1AP)P1P(P1AP)P1=PLnP1

と変形できる.また対角行列は対角成分以外が0である行列なので,その累乗は対角成分を累乗するだけで良い.

Exercise 2.3 (対角化と累乗の計算) 次の行列について10乗を求めてみよう.すなわち

A10=(2213)

を求めよ. 説明した通り,行列Pを固有ベクトルによって構成し,その逆行列P1を求めて,Lを求めよう.